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弦楽四重奏「ザ・芸者ストリングス」のマネージャとしての奮闘記


by yasuyakko

第二十六話 セカンドCDアルバム「艶音」、艶(あで)やかに、艶(つや)やかに

ファーストCDアルバム「音舞」をリリースしてもうすぐ2年目を迎えるその数ヶ月前、靖奴は、すでに、次のCDを目論んでいて、舞台で使おうと芸妓たちに言いながらも密かにジャケット用の衣装を想定して、着物地のアオザイを購入した。時期同じく、春奴も、レコーディングエンジニアA氏にあたりをつけていた。そして、やる気になった芸妓たち、試しの録音会の後、よし、レコーディングだとそのまま進むことになった。

「じゃあ、リリースは2003年の4月1日、エイプリルフールね~。」

と靖奴、さっさとリリース日を決めてしまう。ものごとはターゲットの日を設定しないとなかなか進まないのだ。

まず、靖奴と本職の方で懇意にしていただいているN氏に、CDの外側、ジャケット関連を全面的にお願いした。カメラマンを手配してくれ、場所は靖奴から、これもいつもお世話になっている新橋にあるビストロベルランの2F、すき焼き今朝(いまあさ)で行うことになった。ベルランのご主人のお父様が今朝のご主人であり、ご好意により場所を提供していただいたのである。1日で、和やかに撮影が終わる。

写真選びの段になって、

「あの、この晶さんのこれ、許せますか?」
見れば、歯が大分むき出してある。
「うーん、いいでしょう。」

「雪之丞の前に落ちている髪の毛、どうしましょう。」
見れば、たまたま白髪(若白髪?)がまざっている。
「うーん、コンピュータで消していだたけます?」

そして出来上がったジャケットは、うーん、艶やか。

その後、N氏によって、リリーススケジュールを睨みながら、JASRACシール(靖奴が申請、最近、申請してからシールが送られてくるまで早くなった。JASRACもシステムを改善しているらしい。)とともに、CDプレス屋さんに印刷物(ブックレット、ジャケット表と裏、帯、CD盤面デザイン)を納入する段取りが決められた。この部分で今回は靖奴の手が大分らくになった。N氏のおかげである。

一方、CDの中身、新年明けて2日間かけてレコーディング、仕事柄、芸妓たちはレコーディングには慣れてはいたし、第一弾も経験していたので、大丈夫かなとちらっと思ったが、それは甘かった。やはり、4人全員が満足するために、同じ曲を何度もやり直す。1日目は靖奴が立ち会ったが、

「うーん、今の、そこちょっと目立つなあ。」
「ちょっと気に入らない。」
「音程、だめだよね。」

などとみんなでかんかんがくがく。険悪な雰囲気になると、A氏が脇ではらはらとしているのがわかる。苦労したのは、クライスラーのウィーン奇想曲、持ち越しとなる。2日目は、靖奴は行けずに、このCDに最初のA氏との打ち合わせからサウンドアドバイザーとして参画していただいている、実力ピカイチのアーティスト、K氏に立ち会っていただく。レコーディングが終わって、小打ち上げで、楽しげな電話が芸妓からかかってきて、

「うまくいったよ~。」
「A氏ってすごい素敵な夢をお持ちなんだよ~。靖奴の男版みたい~。」

などとご機嫌な様子。でも、靖奴の男版は大分おこがましいくらい、A氏は夢もスケールも大きい方なのだ。ともかくも、レコーディングが終わってちょっとほっとする。

さて、そのレコーディングで録った音は、トラックダウンの段階を経てまとまった形の曲になる。このトラックダウンが、レコーディングエンジニアの味の見せ所、それにも立ち会う。都合のつく芸妓も立ち会った。やる気の芸妓だ。ばらばらな感じの音が、1つの曲になっていく過程は、まるで、食素材に、香辛料、調味料を混ぜて秘儀を尽くして料理されていく料理みたい。当然、各曲で、料理法も味付けも違うのだ。たとえば、

「It's only a paper moon は古いラジオから流れてくるどこかひなびた感じ。」
「ホットウィスキーは、狭い酒場で女二人で飲んだくれている様子。」
「黒い瞳は、だんだん弱い感じから強い感じに迫ってくるように。」
「Flyling Heart のそこは、まるっきり音をいじって機械音のようなへんなふうに遊んでしまおう。」

などなど、K氏、芸妓、靖奴、そしてA氏で、話に花が咲き、そしてそれがA氏の魔法の手にかかっていくのである。

そして、A氏から、マスタリングにポピュラー界では夢と言われているすごいところを紹介していただく。
マスタリングは、曲を1つのCDにまとめる、例えると、出来上がった料理を、きれいに並べ、盛り付けして、ゴージャスなディナーにすること。あれよあれよという間に、曲の間隔や音の大きさ(音圧)が調整されて、そして、マスターCDが出来上がった。

この中身、A氏、そしてK氏に、もう足を向けては寝れないくらい、感謝、御礼100万回…なのである。
もちろん、やる気の芸妓たちのすざましい集中力、すべての段階に関与する積極さ、嬉しいため息である。

プレスは、音舞のときに頼んだプレス屋さんに頼み、ついでに、音舞の追加プレスもお願いする。音舞も順調に売れているのだ。

3月末に、プレス屋さんから荷物が届いた。ダンボール10箱。う、置くところが。靖奴の家はダンボールだらけになった。

「できたよ~。艶(あで)やか~、艶(つや)やか~ よ!」

芸妓に報告。

今回は、レコード店への足を使っての営業は行わなかった。にもかかわらず、卸販売をお願いしているR社の案内だけで注文がそこそこ入った。ちょっとは認知されているのかな?
もちろん、靖奴から、今まで芸ストに関与していただいた皆様にはダイレクトメールを出させてもらった。それでネットからの注文もいただいている。
芸妓が出演する各機会には、必ず、CDを持っていって即販する。そこで売れることも多い。

さて、次はどうするかな。また2年後かな。今度は、芸人さんを呼んだコラボレーションの曲も入れるかな。
2度やれば3度めもすぐなのだ。
そんな気分の靖奴だった。




次回は、定期ライブ其の八「お・ど・り」についてです。
by yasuyakko | 2003-06-01 12:00