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弦楽四重奏「ザ・芸者ストリングス」のマネージャとしての奮闘記


by yasuyakko

第三十四話 夢の実現へ (Part5)

「那須移住計画プロジェクト」の音楽ホール「弦楽亭」に対するこだわりは細かいところでもたくさんあった。

まずは、トイレと洗面所。靖奴の持論。
「そこを見ればだいたいのオーナーの雰囲気とこだわりがわかる!」

で、早くから九州の有田焼の窯元に目をつけていて、洗面ボール、紙タオル入れ、トイレットペーパー入れを揃いの花柄の、高級感漂うセットでK氏に注文をお願いした。さすがにトイレの便器まで花柄にするのは控えたけど。高価なものだったので、K氏、
「緊張しちゃったよ、取り付け工事。」

だったそうな。用はなくても、弦楽亭に来たらぜひ一度はトイレに行って欲しい。

シャンデリアを選ぶのも大変だった。もともと洋館のイメージを描いていて、それに合うもの、でも予算が折り合うもの、と分厚い電気カタログを2-3社分見て、このメーカーと決め、ショールームに行った。春奴、だんなはんも同行。

「これがいいんじゃない?」春奴
「うん、値段も悪くない、いいよいいよ。」靖奴

二人が同意したらもうこれって決まる。さんざん見た挙句だったからだんなはんは疲れ気味。ちょっとエスニックな小ぶりなキュートでありながら、お洒落。シャンデリア4つに壁かけランプも合わせる。キッチン用の吊り下げタイプも1つ。
ファンも購入。天井が高いから空気をまわすためには必須だ。

照明で最後まで苦心したのは、舞台用のスポットライト。住宅用で性能の良いやつを複数、と決めて購入して取り付けてみたものの、
「うーん、足りないなあ。」
と春奴、ステージに実際立って首をかしげる。
「追加だな。」だんなはん。

結局天井と脇からスポットライトを掲げて、やっとOK。

録音機器については、当初考えていたものよりはるかに大掛かりになった。靖奴は当初、
「今ある移動式のDATとマイクを使えば録音できるし~。」
と思っていたが、
「いや、工事中に配線しちゃって、ちゃんとした吊り下げマイクと録音用、ミキシングコンソール用の配線を複数チャンネルでやっちゃおう。」
とだんなはん。
春奴もそこにはこだわって、春奴とだんなはんで物事が進行し、そしてプロの音響エンジニアA氏にお願いして、弦楽亭での設定を請け負ってもらったのである。

さて、絶対はずせないもの、キッチン&バーカウンター。演奏が終わって、カウンターでカクテルやワインでひと時の憩いの時間をすごす。もちろんコンサートはドリンク付きで、カウンターから飲み物サービス。そんなふうに思っていたから、これははずせなかった。そしてイメージも木のおしゃれな手造り感満載のカウンターと後ろにはキャビネット、ボトルやグラスを並べて。そんなちょうどイメージぴったりの写真が雑誌に載っていて、それをK氏に渡したら、K氏がかなりこだわり、
「キャビネットは私たちで手で造ります。」
「カウンターは一枚板のいい木材を探してきます。」
となって、ある日、
「見てください。」
と嬉しそうにかついできたのは、もみの木のまさに切り取ったそのままの節目と模様いっぱいのもの。
「これを少し加工して反らないようにして、組み立てますね。」

こ、これは、すごいぞ、と靖奴、大満足である。

内装と外装。

内装の壁の色は一度選んだ色がなんとなく灰色っぽく暗い感じになってしまったので、無理を言ってK氏にやり直してもらって明るめの白色にしてもらった。腰から下はこげ茶の腰板、壁上部と天井は特に色は付けずに天然の木の色をそのままむき出しにしてもらう。床の色もこげ茶、といってもこげ茶色のペンキをどうふき取って濃いこげ茶、明るいこげ茶にするか、結構議論した。結果、床の色と壁の腰板のこげ茶色は違うこげ茶となった。
壁にかざりの円弧状の出っ張りを取り付けたのはK氏の発案。おかげで立体的なデザインとなっていい感じ。
「ここに器とか飾ってギャラリーにしてもいいですよね。」
「絵画を掛けれるようにワイヤを取り付ける溝を壁に作っておきましたから。」
とK氏、アイデアマンである。

外装は、まず前面。芦野石、八溝杉など地元特産の資材を使ってデコレーション。エントランスのドアも手造り、取っ手は楽器のF字孔をかたどってこれも職人さんに依頼。エントランスの窓もだんなはんデザインで特注、地元のガラス屋さんにお願いする。
外壁の色をどうするか、カタログでよさそうな色を選ぶ。白地にマーブル状にエンジが入った塗りの手が見える暖流というサンプルが気に入って、これとなるが、実際に塗ってみるとかなり大胆。サンプルの写真とは大違い。

「本当にこれでいいですか。」K氏。
「混ぜ具合がわからないなあ、こう?」と左官屋さん。
わりと細かく指示して、じゃあお願いしますと靖奴頭を下げてそのまま出勤し、帰ってくると、半分ぐらい塗りあがっていて、
聞けば、

「戦車の迷彩色みたい。。」だんなはん
「ゲージツだ。」左官屋さん
「何かやるようでいいんでないの」水道屋さん
「ま、飽きたらまた塗れっから。」K氏

「いいよいいよ、すごい素敵。」と弱気の男性陣に対して強気の女性陣。

結果、大好評となる。

椅子についても悩んだ。
靖奴、アンティーク風、西洋のアールデコ風、マリーアントワネットが座っていたような、そんな椅子をイメージ。
春奴とともにネットオークションなどで何脚か購入してみたり、家具屋さんをまわってみたり。
でも、価格と折り合わないし、座りごこちも今ひとつ。

ひょんなことで、地元の家具屋さんに相談すると、
「組み立てキットの椅子でも、色を付けて座面を削れば、すごくいい感じになりますよ。」
と言われ、それでお願いすることに。
最初は30脚で対応したが、後にすぐに足りなくなって20脚追加、まだ足りなくなりそうな気配である。

後日ではあるが、コーヒーカップも地元の陶芸家にお願いして手造りで揃えてもらった。那須の地元には頼れるアーティストも業者もいっぱい。


「よし、音響のチェックだ。」
こけら落としが2004年秋のいつと日にちが決まっていたので、その前に一度レジデントユニットとなる芸ストに来てもらった。
予想通りの響き過ぎ、カーテン屋さんに頼んで、カーテンを吊って少しデッド側に振ることで調整する。

さて、最後の段階、外構である。こけら落としの日程に合わせてK氏、突撃体制、ぎりぎりのスケジュールである。アプローチの石段を造って建物を外から照らすライトを設置して、駐車場を舗装。別途エクステリア専門の会社にも相談して、住居側に目がいかないように植木を植えてもらった。そして最後に看板(これは春奴の知り合いにデザインを依頼、文字の中に楽器のパーツやグラスの形などがあって隠し絵的デザイン。)を取り付けたのはこけら落としコンサートの当日。

「できましたねえ。」
「間に合ったねえ。」
「すごい!」
「わーい!」

みな感無量である。

そして、こけら落とし、その後定期的な自主コンサート、また貸しホールとして、少しづつ弦楽亭が動きはじめた。

もちろん、毎日、なんらかのコンサートやイベントが弦楽亭で行われて欲しい、上質な音楽が聴ける場所として弦楽亭が定着して欲しい。

そのために、だんなはん、営業三昧。靖奴もできる限りの力を注いでいる。

そして、将来は、
「雅子さんと芸ストで飲んだくれるの~。」

だって、弦楽亭は那須の御用邸のすぐ裏にあるし、それに、雅子妃と芸スト、世代が一緒、合うと思うんだよね!

と夢見る靖奴であった。

(夢の実現へ 完)
by yasuyakko | 2005-07-01 12:00